なぜ健康な人は傘を持たないのか

メンタル

ぼくはめったに傘を持たない。

ほとんどずぶ濡れになる未来が確実である場合をのぞいては、手ぶらでいるのが心地よい。

大したことのない小雨は手ぬぐいで頭を守れるし、万が一ずぶ濡れになっても命を取られるわけでは全然ない。

ふと、目に止まった本を立ち読みすることもできるし、とっさに足元をとられた高齢者に手を差し伸べることもできる。手ぶらは心の余白だ。

傘を持つことに抵抗がある理由は、それだけで管理コストが増えるから。

他人に当たらないよう配慮したり、置き忘れないように気を付けるコストは、たとえ雨が降らなくても100%発生する。雨が降ったら降ったで、店内が濡れないようにしたり、家でしっかり干して乾かしたり、とにかく世話がかかる。盗まれることだって一度や二度じゃない。

たぶんぼくは、起きるかどうかわからないことに備えて、起きるに決まっている面倒を抱え込むのが嫌なのだと思う。雨は降る確率は100%ではないが、面倒が起こる確率はつねに100%だ。

傘に限らない。

〝もしも〟に備えれば荷物は増えるし、荷物が増えればコストも増える。

道を尋ねることがあるかもしれないから、ボールペンとノートを。寒いかもしれないから、アウターを。暇になるかもしれないから、文庫本を。熱を出すかもしれないから、解熱剤を。なんとなく役に立ちそうだから、トイレットペーパーを。

しかし、未来のすべての不安を潰すことなんてできない。潰すために増やしたもの達で、荷物はドンドン重くなる。その荷物を置くためのスペースが必要になる。その荷重に耐えうる体力が必要になる。その疲労を癒すための食事が必要になる——

これを書いている今現在、ぼくは東京滞在しているが、リュックを含めて荷物の総重量は2.8kg。まだ手放せないパソコン、充電器、2枚のTシャツと下着、それに手ぬぐいと化粧水ですべてだ。

 

そういえば以前、体質改善プログラムの女性スタッフ二人とアゼルバイジャンで現地集合したことがある。

二人とも快活で、素直で、よく食べて、よく寝て、よく笑う。そんな姿でこれまで多くのクライアントさんの体質改善に貢献してくれている。

そんな二人をみて印象的だったのは、女性であるにも関わらず、やはり小さなリュックでコンパクトにまとまった荷物だった。

予約したツアーの主催者が時間になっても現れないなど、トラブルが全くないではなかったが、その場その場で臨機応変に対応してとても充実した4日間を過ごした。

 

たぶん、健康な人は、そもそも自分に対する信頼が厚い。

だから、最低限の準備でも、臨機応変に対応できると心から自分を信じることができている。頭痛が起こったら私は疲れている。この人と関わり続けたらアレルギーが再発しそう。そういう自分のトリセツが充実している。

また、事前にすべての不安を潰せるわけではないことも理解している。就寝時間は自分で決められるが、入眠時間は決めることができない。自分の発言は自分で決められるが、それで相手がどう感じるかは決められない。そういう切り分けができている。

そしてなにより、あらゆる方向のリスクに備えておく総コストよりも、起こったことにだけ臨機応変に対応するほうがずっと省エネであることを知っている。この違いはとくに大きい。

 

いろんなサプリを試しすぎて、なにがどう効いているのか迷宮入りしてしまうこと。

血糖値測定器を腕に装着して、いつなにを食べるか考えすぎてしまうこと。

風邪をひいて、病院に行くこと。

備えた直後は安堵感に包まれるけども、そこで生まれた面倒から新たな備えが必要になる〝準備〟には、麻薬に近い作用があるとさえ思うことがある。

そんな準備中毒を抜け出して、じぶんはもう大丈夫と心から思える人、もっと増えるといいな〜